江東区(最寄は清澄白河駅)にある東京都現代美術館で開催中の展覧会「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」。会期は今年3月14日(土)から3か月の予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で延期となり、6月9日(火)からの開催となりました。
開催日程が変更となり、アーティストのオラファー・エリアソン氏の来日も中止となってしまいましたが、今回の展覧会は日本では10年ぶりとなる大規模な個展です。
今日はこの「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」の見どころをご紹介したいと思います。気になってはいるけれどまだ行けてない、という方は、一度ぜひ足を運んでみてください。(私はあと何回行ってしまうのだろう…という感じです・笑)。
アーティスト「オラファー・エリアソン」について
オラファー・エリアソン氏は、アートを介したサステナブルな世界の実現に向けた試みで、国際的に高い評価を得てきたアイスランド系デンマーク人アーティスト。1990年代はじめから写真、彫刻、ドローイング、インスタレーション、デザイン、建築などによって、多岐にわたる表現活動を展開し、1999年のヴェネツィア・ビエンナーレ初参加の前後より注目を浴びはじめ、2003年、ロンドンのテート・モダンで展示「Weather Project(ウェザー・プロジェクト)」を成功させ、一躍有名になりました。
自然現象や建築物に大きな興味をお持ちとのことで、作品の大半は、時には機械等も用いて自然現象を思わせる空間を作るインスタレーション。2008年の夏、ニューヨークの様々な場所(ブルックリン橋など)で行われた滝のインスタレーション「ニューヨークシティ・ウォーターフォール」は特にダイナミックだったため、ご存知の方も多いかもしれません。
幼少期に多くの時間を過ごしたというアイスランドの自然現象を長年にわたり撮影するなど、地球環境や自然保護についても鋭い視点を持ちながら世界で展覧会を行っており、日本では2006年に東京の原美術館で展覧会、2011年に東京の東京都現代美術館でプロジェクト展示、2015年に東京の森美術館で展覧会「シンプルなかたち展」に「丸い虹」を出品、 2017年に横浜トリエンナーレに出品しています。
オラファー・エリアソンは、現代美術館の公式サイトに載っていた言葉を借りれば、「自然との複雑な関係をめぐる思考が反映されたインスタレーションは、光、水、霧などの自然現象をしばしば用いることによって周りの世界を知覚し、世界をともに制作する方法について、私たちひとりひとりの気づきをうながす」、まさに風の時代、水瓶座の時代を代表するアーティストだと言えるのではないかと思います。
展覧会「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」について
アーティスト「オラファー・エリアソン」の、日本では10年ぶりとなる大規模な個展。今回の展覧会は、オラファー・エリアソン氏の再生可能エネルギーへの関心と気候変動への働きかけを軸に構成され、彼の代表作を含む国内初公開となる作品が多く出展されています。
中には、サステナブルな生分解性の新素材やリサイクルの技術に関する近年のリサーチの一部や、今回のポスターにも用いられている、暗闇の中に虹が現れる最初期の代表作「ビューティー」(1993年)も!
自然現象を再構築したインスタレーション、光と幾何学に対する長年の関心が反映された彫刻、写真のシリーズ、ドローイングと水彩画、公共空間への介入をめぐる作品等、見応えのある展示ばかりです。
また、今回特に見逃せないのが、今回の展覧会のために制作され、タイトルにもなっている大規模なインスタレーション「ときに川は橋となる」。展示エリアの12番目、アトリウムの吹き抜け空間にて展示されています。
オラファー・エリアソン氏は、今回の展覧会の開催にあたり、次のような言葉を寄せています。
「〈ときに川は橋となる〉というのは、まだ明確になっていないことや目に見えないものが、たしかに見えるようになるという物事の見方の根本的なシフトを意味しています。地球環境の急激かつ不可逆的な変化に直面している私たちは、今すぐ、生きるためのシステムをデザインし直し、未来を再設計しなくてはなりません。そのためには、あらゆるものに対する私たちの眼差しを根本的に再考する必要があります。私たちはこれまでずっと、過去に基づいて現在を構築してきました。私たちは今、未来が求めるものにしたがって現在を形づくらなければなりません。伝統的な進歩史観を考え直すためのきっかけになること、それがこうした視点のシフトの可能性なのです。」(公式サイトより引用)
新型コロナウイルスの影響で開催日程が変更となり、ご本人の来日を始め、当初予定されていた関連イベントも中止となるなど、若干の規模縮小は否めませんが、その世界観に自らも溶け込み、体験できるこの展覧会は、オラファー・エリアソン氏の作品や世界観に触れるのが初めての方も、古くからのファンの方も、とても満足できる内容になっているのではないかと思います。
「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」の見どころ
今回の展覧会では、東京都現代美術館地下2階の会場で、オラファー・エリアソンの新旧の作品計16作品を体感することができます。それ以外にも、1階のショップでは「リトルサン」を購入することができたり、ショップの奥にあるスペースでは、建築家のセバスチャン・ベーマンとともにオラファー・エリアソンが初めて手がけたデンマークの「フィヨルドハウス」に関する映像を見ることができます。
※展覧会の会場に入る前には、それぞれの作品の位置と解説が記載されているマップをもらっておくことをおすすめします(これがないと作品への理解がいまいちです。また、このマップは環境への配慮を目的に展覧会出口で回収を行っているとのこと)。
ここでは、個人的に見どころだと思う8作品を抜粋してご紹介します。
「太陽の中心への探査」2017年
The exploration of the centre the sun
会場に入って最初に目を奪われた作品です。光の美しさに釘付けになりました(多分、全作品の中で見ていた時間が一番長いです)。
オラファー・エリアソン氏は長年にわたりガラスでできた多面体の作品を制作しており、この作品の光と動きは太陽光発電ユニットを用いたソーラーエネルギーによって生み出されているそうです。
このような光の立体作品からは、「オラファー・エリアソン氏の光と幾何学への関心、すなわち生きていくために不可欠な存在である太陽とこの世界を成り立たせている構造や法則への志向が見てとれる…」そうですが、私はそこまでは思い至らず、ただ、あまりの美しさに魅了されていました。
「あなたのオレンジ色の残像が現れる」2000年
Your orange afterimage exposed
壁に映る自分の影が、オラファー・エリアソン氏の作品となるエリア。ここで起こることは事前に理解していないとそのすごさがわかりません(初回の私のことです)。
このエリアでは、青い正方形のイメージが一定の間隔で現れては消えていきます。この青いイメージをしばらく見続けていると、それが消えたときに夕日のようなオレンジ色の残像が立ち現れます。解説によると、「青いイメージは作品のための装置にすぎず、作品そのものは私たちひとりひとりが知覚している間にだけ存在しているのです」だそうです。
自分の影で遊んで終わるのではなく(初回の私のことです)、ぜひオレンジ色の残像を見つけてみてください。
「サステナビリティの研究室」
Sustainability research lab
このエリアでは、ベルリンにあるスタジオ・オラファー・エリアソンで日々行われている様々な実験とリサーチの一部が所狭しと展示されています。彼の世界観に触れるインスタレーションとはまた違った趣があり、「あれは何だろう?」と子ども心のような好奇心が刺激される場所です。
「野菜くずの顔料で描かれた水彩画、作品の制作過程で出るガラスや流木の破片を利用した新たな作品、環境負荷の少ない材料や形状の研究など、エリアソンのスタジオは世界をよりよい場所へと変えていく実践の場でもあるのです」(解説より)
こちらはすごくカラフルで、覗く角度によって見えるものが変わるのが面白かったのですが、並んで1人ずつ見るものだったこともあり、どういう趣向のものだったのか、今もまだよくわかってはいません…。
「力と思いやりの領分」(マインドマップ)2016
Spheres of power and care
オラファー・エリアソン氏が描いたドローイング。彼は自らのアイデアを深め、スタジオのチームと共有するためにドローイングを描いているそうですが、こうして飾られていると、アートにしか見えません(カフェに飾られていそうなオシャレな感じでした)。
ただ、絵画のような美しいアートなのに、「HEAT」「HOT」「COLD」など、描かれた言葉がやけに重たく感じたことを覚えています。
これらの氷河の氷の水彩画に走り書きされた言葉は、私たちを取り巻く地球や環境に対するオラファー・エリアソン氏の思考の跡、なんだそうです。
「人間を超えたレゾネーター」2019年
Beyond-human resonator
大きなガラスのリングによって分光した光が、壁に同心円の絵画を描く作品。「この作品には暗い海を明るく遠くまで照らす灯台の光の仕組みが応用されており、単純な仕掛けによって見る人に大きな驚きを与えるというオラファー・エリアソン氏の作品の特徴がよく表れている」そうです。
こちらも事前に仕組み(?)をわかっていると、より作品への理解が深まるのではないかと思います。まさかこんな壮大なロジックで描かれた絵画だなんて思いもせず、私は最初、よくわからないまま単なるアート作品として見ていました…(不思議な装置がついているなーとは思ったのですが、それが実際に何をしているのか、初回はまったくわかりませんでした…)。
「おそれてる?」2004年
Who is afraid
この作品は、オラファー・エリアソン氏の色彩理論の探求から生まれたものだそうです。
こちらも事前にインスタレーションの仕組みを理解していると、作品への理解、そして本当に目にすべきものがわかります。
このエリアでは、ゆっくりと回転する3つの円形のガラス板を光が照らし、壁に複数の円が映し出されています。大きさの異なるガラス板には特定の波長の光を反射し、捕色の光を透過させる特殊な加工が施されているそうで、「同じ大きさのシアン、マゼンタ、イエローの円が重なり合った瞬間にだけ壁に現れるものがあります」(←ここ大事です!)。
「ときに川は橋となる」2020年
Sometimes the river is the bridge
今回の展覧会のタイトルにもなっている、この展覧会のために制作されたという新作です。(会場内は暗く、黒いカーテンの中にあるインスタレーションなので、ここ、ちょっと気づきにくいです。私は初回、係の方に「こちらにもありますよ」と声をかけていただき見過ごさずにすみましたが、通り過ぎてしまった方もいたのでご注意を。入口もわかりづらいです)。
このエリアでは、水が張られた大きなシャーレが空間の中心に置かれ、12のスポットライトで照らされています。水面が揺れると頭上のスクリーン(写真です)に、捉えがたいさざ波のイメージが映し出されます。シャーレの中と頭上のスクリーンを同時に見ることはできないので、揺れ具合とイメージアートの比較はできないのですが、スクリーンに映し出されるイメージ、とても幻想的でした。
広いスペースではないので、長居がしづらかったのですが、ここもしばらくいてイメージの変遷を思う存分見ていたかったです。
「絶えず変化しつつ徐々に広がるさざ波のような流動する状況をエリアソンは限界を超えるための欠かせない要素と捉えています。世界との新しい向き合い方を提示する作品」(解説より)。
「ビューティー」1993年
Beauty
自然現象を自らの手で再現した、オラファー・エリアソンの初期の代表作として有名な作品。今回のポスターにも用いられていました。(このエリアの入口もわかりづらいのでご注意を。こちらも初回、係の方が親切に教えてくださったのでスルーすることなくたどりつけましたが、そうじゃないとわかりづらいかも…)。
このインスタレーションはとにかく不思議、そして幻想的です。
暗闇の中の霧状の水に光を当てることによって目の前に虹が現れ、見る人の位置によって虹の色や形は異なる、ということなのですが…
写真はちょっと幽霊っぽく見えてしまうのですが、実際はもっと繊細で、見る位置によって本当に見え方が変わります。そして、虹(霧)の中を歩いてみると…少し濡れます(笑)。あとは実際に体験してみてのお楽しみ。
「『光があなたの目に入らないかぎり虹はどこにもない』とエリアソンが言うように、虹を見るという私たちの体験こそがこの作品の本質にほかなりません」(解説より)
これ、本当にそのとおりで、大好きな言葉です。
「溶ける氷河のシリーズ 1999/2019」2019年
The glacier melt series 1999/2019
私がオラファー・エリアソン氏に非常に興味を持った理由の1つに、彼が幼少期の多くを過ごしていたというアイスランドの自然の数々を写真で記録している、ということがあります。
アーティストとして活動するようになった初期からアイスランドの氷河や火山、洞窟などを撮影していたそうですが、こちらの30点組の展示は1999年と2019年に撮影したまったく同じ場所の写真を併置することで、気候変動による20年間の氷河の後退を目に見える形で示したものです。世界の国の中でも原初の自然が多く残ると言われているアイスランドですが…この変化は、実際に目で見て比較していただきたいです。
「サンライト・グラフィティ」2012年
Sunlight graffiti
こちらは本展覧会唯一の参加型の作品です。(個人的には多くのインスタレーションが参加型の気がしていますが…あれは参加方というより体感型、ということでしょうか)。
整理券制で、配布は当日の10時から、1回の体験時間は約12分間、各回の定員は2名。先着順で、なくなり次第終了です。
残念ながら私はご縁がなく、まだ体験できていないのですが、ここでは「リトルサン」(オラファー・エリアソン氏とソーラーエンジニアのフレデリック・オッテセン氏による高性能ソーラーランプ)を手にして空間に自由に光のドローイングを描くことができるそうです。
体験には整理券が必要ですが、他の方の様子を見ることはできます。(ただ、見学はちょっと気まずくて私はいつもできません…)。
オラファー・エリアソン氏の本
こちらはオラファー・エリアソン氏の写真集などが置いてあるスペース。自由に見ていいようで、私も何冊か見たのですが…やはりアート作品は写真より実際に目の前で見る方がいいですよね。
良かったらネットで買おうかな、と思いましたが、本になってしまうと作品の良さは何だか別物になってしまうような気がします。(ダニエル・オスト氏の写真集もそれで結局やめたのでした)。
展覧会を見終えた後は
1周で出なきゃいけないのかな、と思っていましたが、心残りがある方はもう1周するのも良し、あとは、1階のミュージアムショップ「NADiff contemporary」では「リトルサン」や「エコバッグ」が売っているので、そちらを見るのも楽しいですよ。
そしてショップの奥では、「フィヨルドハウス」の映像が流れています。(立ち見なので、最後まで見ることはできていませんが…)
それから、私はまだ利用できていないのですが、友人が以前、ここの飲食店が良かったと言っていたので、オラファー・エリアソンの世界観に浸りながら食事、というのもいいと思います。地下1階にレストラン「100本のスプーン」、2階にカフェ&ラウンジ「二階のサンドイッチ」があります。
あとは隣接している木場公園も、時期によっては気持ちが良さそうですよ。
展覧会「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」は、東京都現代美術館にて、9月27日(日)まで開催しています。気軽な外出や遠出が難しい世の中ですが、次の開催はいつになるかわからないので、ぜひこの機会にオラファー・エリアソン氏のサステナブルなアートの世界を体感してみてください。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
オラファー・エリアソン氏の作品とそこに込められた想いが、今回の来日個展で多くの方に届くことを願って。
初回の記事はこちら。
【DATA】
「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」
公式サイト:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/olafur-eliasson/
展覧会解説シート:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot_OE_GM%2B%20.pdf
会場:東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
会期:2020年6月9日(火)~9月27日(日)
観覧料:一般1400円/大学生・専門学校生・65歳以上1000円/中高生500円/小学生以下無料
東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
電話:03-5245-4111(代表)/ハローダイヤル 03-5777-8600(8:00~22:00年中無休)
開館時間:10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日(火)、9月23日(水)